大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

仙台家庭裁判所石巻支部 昭和41年(少ハ)1号 決定 1967年1月23日

本人 H・Z(昭二〇・一・一〇生)

主文

本件申請を却下する。

理由

本件申請事由の要旨は別紙のとおりである。

本件は、犯罪者予防更生法第四二条第一項の規定により保護観察所長から満二〇歳をこえて家庭裁判所に通告され、期間を定めて医療少年院に送致された者についての収容継続申請事件である。少年院法第一一条第二項は「前項の場合において」として、一定要件のもとに少年院在院者の収容継続を認めるが、その「前項の場合」というのは厳密に同条第一項の場合に限る趣旨か否かについては争いがある。

現行制度上少年院収容期間には少年院法第一一条第一項のように法律が一律に定めるもの(以下「法定期間」という。)と、同条第四項、第五項、犯罪者予防更生法第四二条第三項、同法第四三条第一項のように対象者各人につき家庭裁判所が個々に定めるもの(以下「裁定期間」という。)とがあるが、そのいずれもが保護処分として、矯正教育または身心の故障の回復の措置を講じ且つその効果をあげ得る矯正可能見込期間としての面と、不当な身体の拘束を避けるための自由拘束の限界としての面とを併せ有するものと解される。ところが、その両面は、いずれか一方のみを強調すれば他方は不完全なものとなるような適当な両立の困難な関係にあり、その期間をいかに定めるか、その延長を認めるか、認めるとすればどこに限界を置くかということは、立法政策としてもそもそもかなりの問題を有する分野であると言える。

ところで、法定期間の場合は、少年法がその保護処分の対象年齢を二〇歳未満と定める趣旨と同様、いわゆる可塑性、人格的未熟、違法性認識の低位などの成人とは異なる若年者としての一般的特性を有する者の標準的最高年齢により一率に定められたものであるから、本来個別処遇を建て前とする、保護主義からすれば、対象者によつては多少の延長を必要とし、適当とされる場合のあることは容易に考えられるところであり、各人の特質に応じて収容期間を修正すべき要請は一般的に強いものといえる。少年院法第一一条第二項が収容の継続を「前項の場合において」として認めた趣旨は、直接的にはかかる少年保護制度の形式化を避け各少年の特質に応じてこれが弾力的に運用されることを企図したことにあるものと解される。

ところで、前記の裁定期間の場合、その収容期間はまず対象者各人につき個別に定められるものであり、法定期間のように一率なものではないから、その場合は矯正可能見込期間としての面と自由拘束の限界としての面のいずれか一方への片寄りは既に調整がなされ、その点の弾力的配慮がなされているということが言えよう。

更に、少年法の保護処分の対象者は原則として二〇歳未満の者であつて、二〇歳をこえて保護処分に付し、その処分を継続するということは本来例外的なことであるところ、前記の少年院送致に際し裁定期間を付することとされているのは、主として二〇歳以上の者を対象とするその例外的な場合である。(二〇歳未満の者についてその収容期間を裁定し得るか否かについては争いがあるがその問題の結論はひとまず置く。)二〇歳以上の者の中にも実質的には少年として取扱い、保護処分の対象者とすることが適当なもののあることは当然であり、少年院法第一一条第一項但書第二項の規定もその前提に立つものであるけれども、二〇歳という年齢は民法、公職選挙法などにおいて成人として独立して権利の行使が可能とされる年齢であり、また刑事手続においても事件はもはや家庭裁判所を経由することはなく、検察官は直ちにその刑事責任を追求して公訴を提起することが可能とされることとなる年齢であるなど、社会的には各人につきその人格の充実度など少年らしさを何ら顧慮せず、全く自らの責任において社会生活を営むべき者として取扱われ、また自らは社会の保護を排し、独立して社会生活を営み得る権利を取得することとなる年齢を意味する。かかる社会的地位を付与されている二〇歳以上の者に対し、敢えて少年と同様の保護処分に付する場合には、二〇歳未満の者を保護処分に付する場合以上に身体の自由拘束には慎重であるべく、特にその収容期間の決定については、一定期間の収容により矯正が困難であることが判明した場合には、その後はその者の成人としての自覚により、自己の責任において社会生活を営ましめることが相当と考えられる限界としての配慮もなされねばならないと解する。それ故家庭裁判所がかかる一面をも考慮して定めた収容期間につき、単に矯正未了または身心の回復不完全という理由をもつて更にその者につき収容継続を認めることには大いに疑問があり、この点においても、法定期間の場合とは同一には論じ得ない。

それ故、少年院法第一一条第二項の「前項の場合」を例外的なものと解して、裁定期間の場合につき一般的に類推適用を認めることは相当ではなく、かえつて同条第八項が「少年院の長は、在院者が裁判所の定めた期間に達したときはこれを退院させなければならない。」と規定し同条第二項の適用に関しては何ら規定していない規定形式からすれば、法は同条第八項の場合には同条第二項の一般的類推適用を排した趣旨に解するのが相当である。

ただし、同条第五項の場合がその例外であることは規定上明らかであり、また二三歳未満の裁定期間を付され少年院に収容された者で、精神に著しい故障があり、公共の福祉のため退院が不適当と認められる場合については、同条第五項が公共の福祉に対する差しせまつた明らかな危険を回避するために必要止むを得ない極めて限られた場合の収容継続を認めた趣旨からして、同条第五項を類推適用する余地があり、この場合においても同条第八項の規定にかかわらず更にその在院者の収容を継続することが可能と解し得るであろう。

ところで、本件申請にかかる院生H・Zは、前述のとおり保護観察所長からの通告により、昭和四一年一月一一日(院生満二一歳時)仙台家庭裁判所石巻支部において一年間の期間を付して医療少年院に送致された者であり、且つ、当裁判所の調査審判の結果によれば、同人は軽度の精神薄弱者であり、その行動に平均人と比較して若干無思慮、粗暴と思われる面が目立ちはするけれども、現在精神に著しい故障があり、公共の福祉に重大な支障をおよぼす状態にあるとは到底認めることはできないから、本件収容継続の申請は不適法として却下せざるを得ない。

よつて、主文のとおり決定する。

(裁判官 織田信夫)

別紙

申請事由の要旨

少年は昭和四一年一月一一日仙台家庭裁判所石巻支部の決定により、犯罪者予防更生法第四二条によつて「一年間医療少年院に送致する」旨の決定を受け、当院に入院したものであるが、入院当初から規律違反行為をなし、特に他少年と共謀して就寝点呼直後、てんかん少年に投薬するため本少年たちの部屋へ入室した勤務職員の頭部を、居室内にあつた机の脚をもつて殴打し逃走しようとして未遂に終つた行為や(一段階降下)、またメリヤスズボン下を便で汚損していながら、それをかくして洗濯に出したり、集団寮で同室の弱少者に対して殴打したり、けつたりの暴行をなし、また、給貸与品を喝取するなどの反則行為を頻発させたため、当院での処遇段階は未だに一級の下で、処遇の最高段階である一級の上に達するのになお数か月を要する。(今後反則行為がないとすれば昭和四二年四月一日付一の上に進級予定)従つて当該退院の時期には当然その成績を充し得ないのみならず、犯罪性の除去も未だ充分とは言えない。

少年のこのような規律違反行為は、心情の不安定に基因することは当然であると共に、精神内容が貧弱、幼稚で自己統制力が弱く、衝動や、感情をうまくコントロールする事が困難で、とかく昂奮しやすく、且つ爆発的行動に出やすいなどの性格的負因性によるものである。

本少年に対して入院時から現在まで、絶えず注意を与え、個別指導やカウンセリング等を通して積極的に矯正、改善の方策をはかつて来たが自粛、自戒の態度が稀薄であり、適応意欲にも欠けている点について向後も長期の補導が必要である。

また保護者の引受け意思は消極的であるため、その調整にも、日時を要する現状である。従つて一年間の送致決定であるとは雖も、当該退院時期に退院させるほどの矯正効果も認め難く、且つ、少年の性格の矯正改善と併せて保護環境の調整のため、少年院法第一一条第二項の規定により向後最少限八か月間の収容継続が相当と思料される。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例